まじかるストロングスタイル

地には平和を 僕らに職を…

あびゅうきょ『僕の就職』


一ヶ月前に16冊セット600円のプチアップル・パイを買った。今日になってようやく封を開ける。雑に扱われた古本のにおい。においとともに本からは未だバブルの始まっていない、オタクと新人類と70年代カルチャーが未分化であった最後の時代の空気が伝わってくる。私にとってそれは、神話時代のものである。

漫画ブリッコの世界(http://www.burikko.net/index.html)によればこのシリーズは大塚英志による編集であるらしい。そしてvol.18まで続いたということである。手元にあるのは16冊。デタラメなセット本だが、ここにはある種のリアルさがある。つまり2冊分ぐらいは現代からこぼれ落ちるような部分を持っているということだ。残りの2冊分を私達は感知することができるか。

美少女まんがベスト集成②を読む。再録も含まれているが、いしかわじゅんかがみあきら吾妻ひでお藤原カムイとり・みきという豪華なメンツを押しのけてたがみよしひさが表紙を描いている。

個々の作品についてのコメントは控える。「馬鹿馬鹿しいけど、そうでもないか」ぐらいに思って欲しい。いしかわじゅんあびゅうきょの作品、かがみあきらの絵はよかったとだけ書いておく。なんせ神話時代だ。私はそれを計量することができない。

巻末の編集後記。おそらくは大塚英志によって書かれた「PROFILE and gossip」が面白かったので幾つか抜粋しておく

早坂未紀 83年は”脱ロリコン”で勝負をかける。リュウ』5月号には同人誌時代の幻の傑作「東京電撃隊」が構想も新たに登場予定。自費出版の個人誌『フリス』は古本屋で2万円の高値がついた。

谷口敬 最近は月産30枚という以前からは考えられない(?)ハイペース。周囲の作家たちが「脱・ロリコン」を宣言する中で一人、ロリコンまんがに徹すると決意を固めるも、なんとなく「スランプ」

藤原カムイ ポスト・ニューウェーブの代表的存在。今のところ活躍の場は限られているが、今年は絶対にあちらこちらでこの人の作品を見ることになるはず。覚えておいてほしい人だ。

(強調BY保田)

バブルが始まり、崩壊し、「マンガは終わった」といわれ、オタクブームに振り回される現代。私達は神話時代の彼らからどれだけ遠くにいるだろうか。渡辺電機(株)氏のブログから引用する(2005年9月9日分)。

ロングヘアーの女の子を描こうとしたら、明らかにラムちゃんの面影がそのシェイプに宿っており、ジェネレーションというものには抗えないのか、もはやDNAに刻まれてしまったのかと途方に暮れた午後3時。もう女の子は描かない。決意が変わらないうちにと編集者に路線変更の告知電話をするも、一喝されて縮み上がり、涙目でしこしこと萌えキャラの練習をする日々である。次の時代は中崎タツヤの描く女教師がクルと思うのだが。こないだ偶然、アニメ「苺ましまろ」の皆で入浴するシーンを目にして、思わずげろを吐いてしまった私に、どれほど業界のお役に立てる力が残ってゐるのでせうか。

苺ましまろ」にげろを吐く氏のことを何となく理解できるような気がする。


付記1、とり・みきは出淵(原文ママ)裕からの紹介だそうで。何歳だ出淵(原文ママ)裕。
付記2、大塚以前漫画ブリッコにはかわぐちかいじ谷口ジローも書いていたようで。戦後民主主義者大塚とサブカル保守のかわぐちとのニアミス!『沈黙の艦隊』はあびゅうきょの影響下に書かれたという仮説は乱暴か?