ダーウィンは外国人

夏目房之介『マンガと「戦争」』の評判は悪い。この書籍で展開された社会反映論的な議論は「マンガ表現論」を確立した氏からしてみれば、本人も認めているように、一種の後退といわざるを得ない部分を持っている。しかし、私には本書が輝かしいものを持ったものに見える。

それは、本書が一貫した視点から描かれたマンガ史のなかで、私の知る中では唯一、ニューウェーブ以降の作品を取り上げることに成功しているからである。大友克洋からかわぐちかいじ山口貴由への流れ、そして彼らの「キャラ立ち」理論から「エヴァンゲリオン」という「キャラ萌え」へと移っていくサブカル業界の変貌。これらを戦後マンガ史の中で見事に位置づけた本書は一級のものであるように思える。勿論、「マンガは終わった」といわれた後のマンガしかリアルタイムで読んでいない私のような読者にとって、知っている作品が出てきて嬉しかったという部分も、いやその部分こそが大きいわけであるが。

マンガ史を描く上で、価値相対主義に連なってくる「表現論」(加藤典洋『テクストから遠く離れて』あたりを参照。でもビミョー。夏目氏と四方田犬彦氏では「表現論」のやり方も違うわけだし。誰か教えて。)を半ば捨て、「戦争」という「意味」を持ってきて、ニューウェーブ以降の作品群を描くこと成功していること。これらは熟考に値するだろう。「線」や「コマ」のマンガの快楽に酔っ払って、「戦争」やら「現実」やら「社会」を甘く見ていてはいけない。庵野秀明のオタク度よりも、押井守の「リアリティ」へのこだわりのほうが私には狂気的に見える(『メカフィリア』!)。

で、保田から愛国者である皆様へのオススメ。戦後60周年に読んでおきたいマンガ5本を紹介。おそらくマンガ界において戦後は終わっている。それどころか、私達は『気分はもう戦争』や『沈黙の艦隊』以降の世界を生きている。こうの史代が成功をおさめたのは、おそらくそのためである。柄谷行人大明神の60年周期説も外れたわけだし、啓蒙やらアジテーションではどうしようもない、こんがらがった世界が広がっている。この「歪み」は憲法と教科書を改正したところで、直しようがない。この欺瞞こそを自らのものとして生きるべきである。

特務咆哮艦ユミハリ 1 (バーズコミックス)

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蛮勇引力 1 (ジェッツコミックス)

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ほしのふうた『みちくさ』
ならやたかし『ケンぺーくん』
解説は後日。疲れた。