『シロクマとメイド』第0話

スイッチが入った。体温が上がって、夢から醒めていくのがわかる。体の中で起動音がする。電気が頭を走る。動き始めたモーターが振動し、共鳴をする。外部の情報が目に映る。高く積み上げられた本。散らばるディスク。ご主人様の部屋だ。私の部屋でもある。

「オハヨウゴザイマス、ゴシュジンサマ」
「いや、急にロボットらしくしなくていいから」
「ご主人さまあ。おなかが減ったにゃー」
「君はネコミミメイドロボじゃないだろ」
「へへへ」

私が生まれる少し前に、「戦争」が終わった。勝者のいない、ただ「人間」が敗北しただけの戦争。いろいろ切ないことがあって、私たちは生み出され、私は今こうしてご主人様と一緒に過ごしている。

本の山を踏み分けて台所に行き、薬缶で湯を沸かす。昨日の残り物をフライパンで温めて、カーテンを開ける。もう昼すぎだ。葦原の方で水鳥たちが鳴いている。さて、今日ぐらいは掃除をしなきゃ。